BLにできることはまだあるかい

BL系音声ドラマ感想アーカイブ

ドラマCD こぼれる、

「こぼれる、」
原作:森世 メインCV:斉藤壮馬羽多野渉
原作事後閲読
評価:★★★★★☆☆(良作)

いやぁ、羽多野渉さんのわんこ力が限界を突破してしまったな。お話自体は特筆すべき点も無いのだけど、キャスト陣がことごとく芸達者な方ばかりで。
税込4400円という高価な価格設定でもギリギリ許せる内容でしたね。

 

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www.comicbox.co.jp

 

脚本だけで言えば★4つといったところ。
亘理良科(CV斉藤壮馬)は不良グループでリーダー格の顔色を窺いながら一緒に行動している卑屈なヤンキー。良科たちいるの学校に都会から転校してきた古川文(CV羽多野渉)は、何もかも持ってる長身イケメン。
何をやらずとも目立つ上に世間知らずで大人しく御しやすい文を利用して、良科がグループでの地位を上げようとするのが前半のストーリー。

この部分では良科が「文をパシれる」「文のアポが取れる」を周囲に見せて小さい優越感に浸る場面がカットされてるのが勿体なかったと思う。1回目は原作未読の状態で聴いたので、「あれ、あらすじに書いてあった要素は?」と少し混乱した。「良科は文の目立つ外見や出自を利用した」を強く印象付けておかないと、後に良科が自分と不良グループのリーダー格である数志(CV古川慎)が同類であることに気づき悔い改める展開が活きないような気がする。
尺に収まらなかったのならおまけトラック削るか2枚組にして欲しかったな。あぁでもこのシリーズ2枚組にしたら6000円超えるんか……(夜はともだち)

そしてもう一箇所カットされている、文が保健室で「良科のグループとは仲良くなれない」と言っているのをカーテン越しに聞いてしまった良科が、文を押し倒して想いを吐露するシーン。これも必要だったと思う。
未読の視聴者には、文が不良グループから制裁を受けている良科を見て、1回目は助けられなかったのに2回目は助けられた、その間の期間に何があって心変わりしたのかが全く分からない。

新規描き下ろしで良科と文の初体験を聴くことが出来るトラック6も、本編を削ってまで入れる必要あったかな。高校生同士の初体験シーンに大きく心を動かされるのは、「初めてのセックス」が共に過ごした二度と戻らない時間とそこで初めて得る瑞々しい感情の集大成だからであって。
そこすっ飛ばすのならわざわざU-18の「児童」を題材に選ぶ必要無いと思うんだ。
キャスト陣のお芝居が本当に素晴らしかっただけに、濡れ場で釣って買わせるようなやり方に見えてしまったのは残念な点。BL聴くファンはそんなもんだと思われているのなら、悔しい。

ただこの作品なぁ、何度も言うようにキャスト陣が本当に素晴らしかった。
皆さんご存知のように羽多野さんはBL系音声ドラマでたくさんこういう役、つまり純朴で相手のことが大好きないわゆるわんこ役をやってきた。大体こういうキャラは年下と相場が決まっているもので、今回ベテランとなった彼がわんこを演じるのはどうなんだろうと思っていたら……いやはや、おみそれしました。なんの心配も無かった。きちんとピュアなのに深みもあって、本当に優しくて暖かくて。
特に良科に唆された文が動画に撮られながら自慰をするシーン。
名前を呼びながら漏らす吐息の繊細で慎ましく、美しい様がまるでBLCD黎明期を支えたレジェンド達のお芝居のようで。「羽多野渉さんってこの領域に達したんだなぁ」と、長い長い年月をかけて築き上げた歴史のようなものを思い知らされましたね。
「あれ、ちんちんない?」のシーンはくっそ笑った。

そして今回個人的にMVPだったのが、井学数志役の古川慎さん。
怖い上手い怖い。原作を見る限りではいまいち何を考えているか分からないキャラクターだけど、音声で聴くと笑いながら傲慢で残忍な行動をする恐ろしさと、先輩の権威を笠に着て非行をするような器の小ささが絶妙な配分で表現されていて、古川さんの圧倒的な実力を堪能出来た。
追い詰められた良科が自分でズボンを下ろしたのを笑う場面。見下した相手を嘲笑するお芝居がすごくて、数志ラストの登場シーンであるここにテンションのピークを持ってきて大きな印象を残したのはスター性というのか勘というのか。凄みすら感じた。
あと古川さんが「古川(文の名字)」つってんのちょっとおもろかった。

亘理良科役の斉藤壮馬さんも安定のお芝居で、この会話劇のどこを切り取っても残念な部分が無かったのは贅沢なことだなと。
脚本には色々言いましたが4400円の価値は間違いなくあると思います。私の負けです。
対戦ありがとうございました。